特集「掛川で働く」

教師嫌いの教師。ICTを通じて教育改革を進める掛川西高校・吉川先生が見据える非常識な未来

掛川の暮らしを発信するWebメディア「掛川暮らしのマガジン」。現在特集している「掛川で働く」では、掛川で働く人たちにフォーカスしながら掛川で働く魅力を探ります。

今回は、静岡県立掛川西高校の教員である吉川牧人(きっかわ まきと)先生にお話を伺いました。もともと多くの肩書きを持つ先生ですが、先日発表された「地方公務員アワード2020」においては全国の受賞者13名の中の1人として受賞。全国からも多くの注目を集める存在です。

<吉川牧人先生>
静岡県立掛川西高校 世界史教諭
研修課長 ICT推進委員長
Apple Distinguished Educator
GEG(Google educator groups)FUJI 共同代表
Google認定教育者LV.1 LV.2
MIEE(マイクロソフト認定教育イノベーター 2020-2021)
地方公務員アワード2020 受賞

本当は紅茶屋さんになりたかったのに、なぜか教師の道へ

ハマ:そもそも、吉川先生はなぜ教師になったのでしょうか?

吉川:実をいうと、本当は紅茶屋さんになる予定だったんですよね。

ハマ:えっ…?

吉川:高校生のとき、紅茶の専門店に行ったことがあったんですよ。そこで紅茶をいれるのにプロの技があることを目の当たりにしました。それですっかり紅茶の虜になってしまったんです。なので、大学は日本一の紅茶研究家と言われる先生がいる東京の大学を選びました。

ハマ:そこまでハマってしまったんですね…!

吉川:大学では紅茶関係なく法律を学んでいたのですが、大学の4年間はその先生のお店に通いつめて、紅茶の資格や調理師免許を取ったんです。

就職活動が始まる頃、就職先について考える中で、割と早い段階で法律関係の仕事は自分に向いてないなと思っていました。そこで紅茶研究家の先生に「紅茶屋になります」と言うと「お前はバカか」と(笑)。

その先生は「商社に行け」って言うんですよ。紅茶屋のお店自体は利益が出ない、茶葉の流通の方が儲けやすい、というのが理由でした。それで紅茶屋になるのはあきらめることにしました。

ハマ:あきらめが早いですね(笑)。

吉川:はい。僕は流通にはまったく興味がなかったので(笑)。

紅茶屋をあきらめて、さてこれからどうしようと考えたのですが、僕は紅茶好きが高じてイギリス史を学ぶため大学院にまで進んでいたんですね。歴史は好きだったので、教員になってみようかなと思いました。

ただここで1つ、また重大な問題に直面したんです。

ハマ:なんですか?

吉川:僕って…学校も教師も大嫌いだったんですよ。

ハマ:大問題じゃないですか(笑)

吉川:ルールを押し付けてくる学校や偉そうな教師が嫌いだったんですよね。でも他にやりたい仕事も無かったので、教員を目指すことにしました。

僕が受けたときの教員試験は倍率が約50倍。とてもハードルが高かったのですが、運良く受かりました。掛川西高校に着任したのは約7年前です。

ICTを通じて、これまで感じていた教育への疑問と向き合うことが重要

ハマ:掛川西高校で吉川先生はどんなことに取り組まれているのでしょうか。

吉川:教育におけるICT(通信技術を利用したコミュニケーション)の活用に取り組んでいます。

吉川きっかけは、知り合いの先生にもらったiPadです。その使い方を学ぶため、勉強会などに参加してみて「意外に何かできそうだな」と思いました。iPadは複雑なテクノロジーを理解せずとも、アプリを使えば直感的に誰でも操作できる。ICTと教育を結びつけることに大きな可能性を感じました。

ハマ:そういった可能性に気づいても、先生という立場から新しいことにチャレンジする人は少ないように思うのですが…。

吉川:それは恐らく、僕がそもそも学校を好きじゃなかったからでしょうね。もし学校を好きだったら、自分の学生時代に行われていたことをそのままやっても何も違和感は無かったと思うんです。

でも僕の場合は違いました。

ハマ:学校を好きじゃなかったことがプラスに働いているということですね。

吉川:そうですね。これまで日本の教育はすごいと言われてきましたけれど、海外の教育を見てみると決してそうではありません。

海外の学校は日本のような暗記重視の教育ではなく、クリエイティブを生み出すために必要な教育をすごい勢いで進めています。

生徒個人の力ではなく、国や学校が与えるプログラムやマインドによって、すでに計り知れない差が生まれているんです。それを私たちは変えていく必要があると思います。

ハマ:私も子どもの宿題をみることがあるのですが、自分が小学生の頃と様式がまったく変わっていなくて驚いてしまうことがあります。

吉川:今の時代、生徒や保護者はSNSなどを通じて最新の情報に触れることができます。おかしいことに気づいている人はたくさんいるけれど、それを実際に口に出す人は少ないんです。

コロナ禍により、在宅での教育がなされるなどして「そもそも学校の役割ってなんだろう?」と問いかける機会が増えましたよね。今はちょうど、それまで感じていた疑問に向き合っていく、そんなタイミングなのではないでしょうか。

掛川西高校が取り組んでいる「探究活動」を通して、すでに多くの成果が生まれている

ハマ掛川西高校では、今年から「探究活動」というものに取り組んでいると聞きました。

吉川:はい。探究活動は、生徒が主体的に様々な人とプロジェクトを立ち上げるプログラムです。そのような関わりを通じて、生徒の学びに対するモチベーションを高めることが目的になっています。

地域の人と関わりながらプロジェクトを立ち上げたり、掛川の街で活躍する大人にインタビューをしたり、そういった経験が大きな学びにつながると考えています。

すでにプロジェクションマッピングやスーパーサンゼンさんと協力したお弁当作りなど、新聞やメディアに取り上げられるような成果をあげる取り組みも出てきました。

ハマ:私もニュースで何度か目にしました。それらはこの探究活動が背景にあったのですね。探究活動にもICTは活用されているのでしょうか?

吉川:はい。オンラインとオフラインのハイブリッドを模索しながら、色々な取り組みが生まれています。

例えば今年は、コロナの影響で体験入学ができなかったんですよね。そこで学生が自分たちで、高校の部活などを紹介するホームページを作成してくれました。

そのような一連の取り組みを評価いただき、全国の高校で唯一2020年度の「学校情報化先進校」に選ばれたんです。

〜学校情報化先進校とは?〜
学校情報化優良校として認定された学校のうち、「教科指導におけるICT活用」「情報教育」「校務の情報化」のいずれかのカテゴリにおいて、特に優れた先進的な取り組みを行っている学校を学校情報化先進校として表彰するもの。

ハマ:全国で唯一!それはすごい成果ですね!

掛川には尖った活躍を応援する風土がある。若者はたくましくチャレンジを!

ハマ今回のインタビューは「掛川で働く」がテーマなのですが、吉川先生から見て掛川はどんな街に見えますか?

吉川:まず街のサイズ感が魅力ですよね。密すぎず、疎すぎずちょうどいいと思います。そして何より、尖って活躍している人がいて、それを応援しようという雰囲気があるのがいいですね。
これまでと違うことをやろうとしたときでも、想いがあると応援してくれる風土があると思います。

ハマ:学生に対してはどんなメッセージを伝えたいですか?

吉川:社会は大きく変わりつつあり、相対的に日本の地位が下がっています。これから10年先のことがまったくわからない、それほどのすごい変化が進んでいます。

学歴、暗記力のようなものが評価される時代。良い大学、良い会社に入れば幸せになれる時代。そんな時代は終わりました。かつて正解ルートと呼ばれたものは今はもう無いんです。幸せは自分で探さなければなりません。
昔とは違う基準で評価されるものがあるはずです。それを探すことが大切です。

大変な状況のなかを戦っていく学生たち。そんな彼らを何とか応援したい。
我々大人が与えられるものは、自身にとって大切なものを見つけることのできる環境や、思い切ってチャレンジできる環境だと考えています。

ぜひとも、たくましくチャレンジしてほしいですね。

インタビューを終えて

「…なぜこの人は教師をやっているんだろう?」

吉川先生と話していると、多くの人はこんな疑問が浮かぶに違いない。
それほどまでに、吉川先生の考え方や言動は教師の常識から外れている。端的に言って「教師らしくない」。

じゃあその「教師らしさ」って何かと問われれば、口は悪いが「ルール」と「権威」を重んじることではないかと思う。そう、どちらも吉川先生が嫌いなものだ。

私たちの生きている世界は、子どもの頃とはまったく様変わりしている。一見同じように見えたとしても、捉え方や価値観が変化している。だからそれに合わせて私たちも変わらなくてはならない。

そんなとき邪魔になるのが、これまでの常識だ。

常識を疑う姿勢。これがこれからを生きる若い人たちに求められる以上、その若い人たちを導く教師にそれが求められないはずが無い。むしろ教師は誰よりも先んじて常識を疑う姿勢が必要だ。

常識を疑うことは常識から外れること。
「教師らしくないね」ということを人目を気にせず我先にできること。

つまりはそう。今の時代の理想の教師像は吉川先生みたいな人なのだ。
教師嫌いが最高の教師になるのだから人生はおもしろい。

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ハマ
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取材をこよなく愛する掛川在住の編集ライター。掛川の魅力をもっと発掘したい!夢は「さわやか」を取材すること。
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