世界農業遺産「茶草場農法」での茶栽培を行う”東山”の麓で、地元掛川のお茶を加工・販売している山啓製茶さんを取材!茶業への想いや新たな取り組みについてお伺いしました。
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山啓製茶株式会社ってどんな会社?
明治35年創業。東山の麓に工場を持ち、地元掛川の茶農家さんとのコミュニケーションを大切にしながら、お茶作りに向き合う老舗「山啓製茶株式会社」。
数々の品評会で受賞歴のある掛川有数の製茶会社の一つで、減農薬を基本とした自然環境にやさしい土づくりや、有機肥料にこだわった茶葉を中心に、厳選して仕入れをしています。仕入れた茶葉は、熟練の茶師の手によってブレンドされ、山啓製茶だけのオリジナルの味を作り出しています。
メイン事業である卸売りのほか、「道の駅掛川」の直売所では、実際にお茶を試飲し、手に取って購入ができるとあって、「道の駅掛川」へと足を運ぶファンも少なくありません。
世界農業遺産「茶草場農法」のお茶とは?
アットホームな雰囲気で歓迎して頂きお話をお伺いすると、”茶農家さんへの想い”や”茶草場農法のお茶への情熱”が溢れ出て、山啓製茶のお茶のおいしさの秘密は、この熱い想いと情熱なのではないかとさえ感じてしまうほどでした。
茶草場農法が世界遺産となってから早9年。地元掛川や行政での認知は進みつつありますが、世間的にはまだまだ「茶草場」の意味が分からない人も多いといいます。
「茶草場農法」とは・・・茶園の畝間にススキや笹などの刈敷きを行う伝統的農法のこと。草を敷くことによってお茶の香りや味、品質が良くなるのはもちろん、里山の動植物の保護など草地環境を守ることにも繋がっているのだそうです。
茶草場農法のお茶栽培はとても大変です。環境に良いことを続けるにはコストも手間暇もかかる。私たち茶商は、一所懸命お茶を作っている人たちのお茶を大切にしたい。それを何とか続けて欲しいということで、茶草場農法の良さをもっとアピールしたいと思っています。
山啓製茶 齋藤さん
ペットボトルの登場以降、急須でお茶を飲むという習慣は薄れ、日本人のお茶離れの問題が深刻化している一方で、海外での日本茶や抹茶の需要は年々高まっています。日本人である私たちが、日本の里山の風景や茶文化を再認識し、世界農業遺産である茶草場農法の茶園を守っていくためには、何ができるのでしょうか。
世界農業遺産認定シールを知って貰いたい!
茶草場農法で作られたお茶には「世界農業遺産認定シール」が貼られているのをご存じでしょうか。
”世界農業遺産「静岡の茶草場農法」推進協議会”が管理する認定制度で、環境保全の啓発、茶草場農法のお茶のブランド化、茶草場農法の継承などを目的として導入されているそうです。
シールに表示されている”一葉・二葉・三葉”は、茶園面積に対する茶草場の割合を表していて、割合が大きい程、お茶の生産に手間暇がかかっているということが理解できます。
私たち消費者は、このシールの有無で茶草場農法で栽培された茶葉の購入を判断することができるそうです。
実はこのシールは、販売業者が有料で購入し、その売り上げによって推進協議会の活動を支えているんです。しかし、現状はシールの認知度が低く、消費者の購入意欲に繋がっていないのです。そうなると、せっかく茶草場農法のお茶を生産しているのに、シールを貼らないという商品も出てきてしまいます。
茶草場農法のお茶は栽培へのハードルも高く、栽培農家さんも年々減ってきています。農家さんや茶草場農法のお茶を守るためにも、山啓製茶では、該当の商品には必ず認定シールを貼って販売をしています。認定シールの認知度を上げて、全国各地、世界中の人たちに、茶草場農法のお茶があるということを知ってほしいですね。
今後世界農業遺産認定シールの評価が上がれば、今シールを貼っていない問屋や小売店も認定シールを貼れるようになるし、それが茶草場農法の未来を救う事にもなります。
消費者の皆さんにとっても、どれを買うか迷った時は世界農業遺産認定シールのあるお茶を!という風になるといいなと思います。
山啓製茶 齋藤さん
”変わらないもの”を守るために”変わる”ことの難しさ
東山の地で、代々受け継がれてきたお茶栽培は、世代交代や消費者需要の変化により大きな岐路に立たされています。そんな中で、変わらないものを大切にしながら、新しいことへ挑戦する山啓製茶の取り組みは、今の茶業界にとって大きな希望の光になるのではないでしょうか。
変わらないもの=茶草場農法で栽培されるお茶。これを守っていくためには、茶草場農法に取り組んでいる茶農家さんをきちんと評価し、栽培にかかる適正なコストを返していかないといけないんです。
良いお茶を安く売るのではなく、コストのかかったお茶をそれに見合った価格で販売し、そこから得られる豊かさを、茶農家さんと共有していきたいと考えています。今は、環境・社会貢献など、子どもの頃から教育を受ける時代。値段だけの評価基準ではなく、茶農家さんのためになる事業となるように取り組んでいきたいですね。
山啓製茶 齋藤さん
生活と経済が密着している農業という世界の中で、変えてはいけないもの、変わらなくてはいけないものの折り合いをつけながら、茶草葉農法のお茶をなんとか残したい、盛り上げたい。茶業界だけではなく、私たち消費者も、掛川市民一丸となって、地場産業を盛り上げていきたいですね。
茶工場ごとのお茶を味わう!
山啓製茶が自信をもって展開する新ブランド「CHA938」は、世界農業遺産「茶草場農法」のお茶を、東山地区の茶工場ごとに商品化しています。同じ品種のお茶でも、茶園や工場ごとの味が楽しめるのは、嗜好品であるお茶の新しい楽しみ方ではないでしょうか。
通常茶問屋は、農家さんや荒茶工場さんから仕入れたお茶をブレンドして、自社の味を作り出しています。「CHA938」の商品は、茶師によるブレンドをせずに、工場の味をそのまま商品化しているんです。これは、質の高い東山の茶草場農法のお茶だからできること。
東山のお茶の特徴というのはあるけれど、東山の中だけでいえば、どのお茶も自信を持っておすすめできるから、あえてブレンドはしません。消費者の皆さんは、「山東のやぶきた・富士東のやぶきた・菱東のやぶきた・菱東のさえみどり・松下園の有機熟成番茶」など、工場や茶園の屋号ごとの味を飲み比べすることができるんです。
パッケージは、コスト削減で一種類にし、素材も環境に配慮しています。ティーバッグに使われているのは、ソイロンという材質で、土に分解するもの。環境に配慮した素材は、どうしてもコスト高になるけれど、利益度返しで作ったので、多くの方に知って貰いたいです。
山啓製茶 齋藤さん
静岡文化芸術大学の学生たちと一緒に作ったという「CHA938」のお茶は、若い世代の声を取り入れ、スタイリッシュで、キッチンやテーブルに出しておいてもインテリアの邪魔にしないデザインに仕上がっています。
全てティーバッグなので、急須を持たない人にも手軽に本物のお茶を楽しんで貰えるし、お茶に馴染みのない若い世代にも楽しんで貰える工夫が感じられます。水出しもでき、朝ボトルにポンと入れて、水を注いで出掛ければ、喉が渇いた2時間後位がちょうど良い飲み頃になるそうです。早く飲みたい人は、少量のお湯の中にティーバッグを入れてから、水を注ぐのもおすすめです。
お茶に携わる人たちを笑顔に・・・
茶商にとっては、原料となる茶葉がないと商売はできない。茶農家にとっても売るところがないと栽培はできない。私たちはお互いに共同体のようなものなんです。
私たちはこれからも、1人でも多くの人に掛川のお茶の良さを知って貰えるように発信していきたいと思います。そして、世界農業遺産「茶草場農法」が続いていくように、農業をしたいという人がずっと続けられるお手伝いをしていきたいと思います。
お茶に携わっている人たちが笑顔になれる、豊かな時間を共有できるお茶づくりを目指して、「お茶の仕事をしていて良かったな」「お茶屋の子どもに生まれて良かったな」と思える世の中にできたら嬉しいですね。
山啓製茶 徳増さん
「良質なお茶を作るための農法」と「環境や生物の保全」が両立している茶草場農法。その豊かな土壌で栽培された山啓製茶のお茶は、旨味が凝縮されたとてもまろやかでとろみのある深蒸し茶でした。今年の新茶もとても楽しみでなりません。
~山啓製茶株式会社~
住所:静岡県掛川市伊達方323-1
山啓製茶: https://yamakeiseicha.com/
CHA938: https://cha938.com/
お茶処東山:https://www.ochadokoro-higashiyama.com/
Instagram:@cha938_kakegaw