掛川茶を世界に!オーストラリアから移住し、大塚製茶で働く杉原さんにお話を聞いてきました。

掛川の暮らしを発信するWebメディア「掛川暮らしのマガジン」。2020年8月の特集「掛川で働く」では、掛川で働く人たちにフォカースしながら掛川で働く魅力を探ります。今回は、掛川の老舗製茶会社、大塚製茶株式会社の杉原さんにお話を伺いました。

<大塚製茶株式会社>

創業明治2年、世界農業遺産の東山地区で代々続く製茶会社。

掛川の地場産業である“お茶”の製造・卸・販売を行っており、日本全国のみならず、世界各国へと本物の美味しい日本茶を届けています。

お茶の味は“茶師”で決まるといっても過言ではない程、重要な役割を持つ優秀な茶師が揃う大塚製茶では、「東京都優良茶品評会」で、“13年連続一等”を受賞、さらに、日本有数の製茶工場が集まる掛川においても、「優良掛川茶品評会」で“静岡県知事賞”を受賞しています。茶葉の仕入れから製茶工程、販売に至るまで、一つ一つ丁寧に、品質にこだわったお茶作りで、全国・世界中のファンを魅了しています。

大塚製茶株式会社

TEL: 0120-40-8088

住所:〒436-0009 静岡県掛川市大野1638番地

HP: http://www.osei.co.jp/

Instagram: https://www.instagram.com/otsukagreenteakakegawa/

“グローバルなお茶作り“で3年後には輸出事業を倍にしたい

aoiomama:はじめに、現在の社内での役割や、どんなお仕事をされているのかを教えてください。

杉原さん:営業部の“国際事業課”の課長として、海外のお客様へ商品の輸出や現地での販売を行っています。国内では“企画室室長”として、新商品の開発や、さまざまな販売イベントなどを担当しています。

aoiomama:商品開発や海外事業と、クリエイティブでグローバルなお仕事内容ですが、特に力を入れている事業はありますか?

杉原さん: 売り上げの6-7割を占めている“卸売り”は、これまでもこれからも継続的に力を入れてやっていますが、“誰かに頼るビジネス”から、“誰にも頼らない”自社ブランドの開発にも力を入れ、生産者から直接消費者に届けたいという思いで新たな挑戦もしています。

aoiomama:なるほど。時代とともに生産者の在り方も変化していますね。特に今年はコロナの影響も大きかったのでは?

杉原さん:そうですね。特に卸の販売量や仏事の出荷は減少しました。お葬式にはお茶という文化が変わりつつあり、コロナの影響も相まって仏事に頼った茶業の在り方を見直す必要も出てきますね。

反対に、通販は伸びたんです。インターネットの普及で、自宅で買い物ができる時代なので、何かがダメになっても他が良くなるように、今後は、量販・通販・輸出をさらに伸ばしたいです。

aoiomama:輸出を伸ばすには、具体的にどんな取り組みをされていますか?また、3年後のビジョンはありますか?

杉原さん:現在、農水省の事業に参加していて、全国で29団体がグローバル産地作りに取り組んでいます。弊社では、海外の農薬基準を満たした美味しいお茶、海外の嗜好にあったお茶を作る=グローバルなお茶作りの取り組みを補助してもらっています。この事業をきっかけに、農家さんの意識を海外に向けてもらい、輸出事業を伸ばしていきたいですね。

aoiomama:随分大きな事業に取り組まれているんですね。掛川で働くといっても、お仕事内容は、世界を股にかけて、国の事業をされている。これからの若者にも、こういった仕事が地方にもあるんだということをぜひ知ってもらいたいですね。

オーストラリアでの永住生活から一転、自然豊かな城下町、掛川へ移住

aoiomama:大塚製茶さんへ勤めて8年とのことですが、こちらへ就職したきっかけを教えてください。

杉原さん:もともと僕は、愛媛生まれのオーストラリア育ちで、高校生から15年程オーストラリアで暮らしていました。家族はみんな今でもオーストラリアで暮らしています。最初に日本に来たときは、山梨の地場産業である宝飾業に就きました。でもファッションに疎かったのでどうも性に合わず…。転職をしようと仕事を探す中で、こちらに声をかけて貰いました。面接の時に、人生で初めて“深蒸し茶”に出会って、ものすごい感銘を受けました。「このお茶を世界に広めたい!」と、転職を決意しました。

aoiomama:海外からの目線で、日本の地場産業に注目されたんですね。年収や役職などで就職先を決める方も多いですが、杉原さんのように、こういった直感が一生の仕事へと繋がったり、自身の経験やスキルを活かせる仕事に出会えることもあるんですよね。とても参考になります。

お茶には尽きることのない奥深さがある

aoiomama:掛川の地場産業であるお茶の仕事に携わってみていかがですか?職場での楽しさや製茶業の魅力を教えてください。

杉原さん:やっぱり製茶業の醍醐味は、お茶の組み合わせを楽しめること。製茶会社の仕事は、いくつもの荒茶工場から仕入れた茶葉を組み合わせて、最高のお茶にすること。その組み合わせって無限なんです。そこが本当に面白いですね。「上級のお茶+下級のお茶=中級のお茶」という方程式ができちゃうほど、お茶の組み合わせは味に直結します。僕らは、何百という茶葉の種類の中から、希望の価格帯・希望の味に合わせたお茶作りをしているんです。

aoiomama:製茶会社さんによってお茶の味が違うのには、そんな理由があったのですね。初めて知りました!組み合わせが無限だからこそ、商品作りに熱中できるんですね。

杉原さん:さらに面白いのは、分析データで、水分・窒素・ビタミン・アミノ酸などが全く同じ成分値を示していても、官能検査(人の五感での検査)では全く違う味になる。要は、データでは同じ成分だよって出ているのに、飲んでみると全然味が違うんです。販売をしていても、データを重視した分析主義のもと、仕入れてくださる方もいれば、うちはデータよりも味と直感だ!と言って仕入れてくださる方もいます。お客様によって好みも違うので、顧客のニーズに合わせたお茶作りを心がけています。

バイリンガルや語学堪能者がお茶業界に増えてきている

aoiomama:お話をお伺いし、お茶作りの奥深さ、そして仕事への情熱がとてもよく伝わってきました。掛川で暮らしていながらも、知らなかったことがたくさんです。これからお茶産業で仕事をしてみたいという方々に伝えたいメッセージなどはありますか?

杉原さん:今、海外で一番お茶を飲んでいるのは誰だと思いますか?

実は大学生などの若者なんですよ。日本ではお茶は年配の方によく飲まれていますが、海外では、お酒などを飲むよりも、身体に良い嗜好品を飲もうといったムードがあるみたいですね。

aoiomama:海外での若者のお茶ブームもあり、これから需要がもっと伸びそうですね。

杉原さん:そうですね。そういった意味でも、これからお茶産業に携わっていくには、語学が堪能な方が求められて行くのかもしれないですね。

aoiomama:正直、お茶業界がこんなにグローバルな業界だったとは知りませんでした。UターンやIターンで「掛川で働く」ことを目指している方たちにとっても朗報であり、業界への注目度も高くなりそうですね。

掛川には“深蒸し茶”をけん引するリーダーとしての役割がある

杉原さん:業界の注目度もそうですが、掛川では2011年のテレビ放映以降※1、「深蒸し茶=掛川のお茶=健康に良い」というブランドが確立されました。深蒸し茶の発祥は菊川市ですが、今では、ここ掛川市のお茶が、“深蒸し茶”をけん引するリーダーとしての役割を持っているんじゃないかと思います。8年前の僕みたいに、深蒸し茶を知らない人に、この感動を伝えていきたいですね。

aoiomama:おっしゃられたように、深蒸し茶は掛川以外でも多く生産されていますが、掛川の茶畑で働く魅力は何だと思いますか?

杉原さん:掛川の中でも、やはり僕らが働いているこの“東山地区”の環境は素晴らしいと思います。早朝の茶畑の朝霧の景色。これはここで働いていないとわからないですね。

aoiomama:どんな景色なんですか?

杉原さん:4月から5月の新茶時期は、毎日朝霧が立ちます。朝日が昇る少し前、空が明るくなってくる頃に、世界農業遺産である東山地区の茶畑を高台から眺めるんです。そこには、新緑のきれいな茶畑の上に朝霧が立ち込めて、雲海のように流れる世界が広がっています。それがなんとも言い表せないほど、きれいなんです。

aoiomama:先ほど朝霧の景色のお写真を拝見しましたが、これを目の前で見たら感動しますね。農家さんや製茶会社の皆さんの努力はもちろんですが、こういった自然環境もまた、美味しいお茶作りの一役を担っているんですね。

————-

※1:2011年に「NHKためしてガッテン」で、”健康長寿の街”掛川市民と深蒸し茶の関係がクローズアップされ、深蒸し茶の健康効果が注目されました。

掛川の街を一言で表すなら「ちょうど良い!!」

aoiomama:杉原さんのように、海外から移住してきた方にとって、掛川に住む魅力って何ですか?

杉原さん:一言でいうと「ちょうど良い!!」。自然や街のサイズ感、人口密度とか、通勤時間、細かいところでいうと信号機の数とか(笑)。車で15分走ると自然が身近にあるような田舎に住んでいるけれど、手に入らないものはないし、100万人規模の街がすぐ隣にあり、新幹線でどこへでも行ける。とても居心地が良いですね。

aoiomama:ちょうどいい!すごく共感します!!

杉原さん:あとは、バイパスですね!!通勤時間が30分伸びたら1日1時間損しますよね?通勤のしやすさは重要です。そしてやっぱり、仕事で美味しいお茶が飲める日々がとてもありがたい。僕の席はあそこなんですが、山の景色を見ながら仕事をしています。元々熱帯雨林の森をガイドする仕事をしていたので、都会で生きられないんですよ。オーストラリアの田舎に近い環境で暮らせています。

aoiomama:海外から来られて掛川に暮らすというのも珍しいですが、苦労したことはありますか?

杉原さん:青年時代を海外で過ごし、思考が欧米化しているので、常識の食い違いが多い。これは結構苦労しましたね。僕にとっては当たり前の行動で怒られる。その時はなぜ怒られたのか分からなかったりしました。今はわかりますよ(笑)。掛川は田舎で個人主義ではないので、“集落・組・祭り・近所付き合い”などに驚きました。それまで好きな人とだけ過ごしていた人生を送る中で、人付き合いの大切さに戸惑いながらも気づかされて、ありがたく受け取っています。

10年後も変わらない、若者が都会に巣立って戻ってくる場所

aoiomama:確かに、オーストラリアと掛川では、文化も生活習慣も、何もかも違いますよね。では、最後に、杉原さんにとって掛川ってどんな場所ですか?

杉原さん:10年後も変わらない街。良くも悪くも変化しない街。時代に遅れるとかではなく、若い方が都会に巣立って戻ってくる場所。都会に近い田舎の特色かもしれないですね。そして、戻ってきた若者たちがけん引する時代がやってくると思います。最近では、「生産者⇒消費者」といった、直接の流れも加速しています。若者が多くお茶業界に入ってくることで業界も変わり、街も潤っていくと思います。

掛川って外国人によって人口が増え続けている街ですよね。田舎で人口が増えるって珍しい。僕みたいな移住者からすると、人種や世代に限らず、サラダボウル※2のような土地ができればいいなって思います。

————-

※2:英語では、多民族が集まり共存している都市や国を「サラダボウル」と表現します。似ている言葉では、他民族が溶け合い新しい文化を生み出す「メルティングポット(人種のるつぼ)」がありますが、対して、「サラダボウル」は、各民族がルーツとなる国の文化を失うことなく共存していくことを指します。

インタビューを終えて

掛川の地場産業である“お茶”の生産について学ばせていただき、ここで働く方々に触れ、茶業界の未来にとても希望があると感じました。若者のお茶離れや、農家さんの高齢化により、生産者が減っているという印象もありますが、実際に取材を進めると、“グローバルな取り組み”や、“海外でのお茶ブーム”、そして掛川という“地場の良さ”に改めて気づかされました。これからも、掛川の街を、お茶業界を担っていく方々の「働く姿」から目が離せません。私も大塚製茶の“深蒸し茶”のファンとして、陰ながら応援していきたいと思います。

 

1 COMMENT

現在コメントは受け付けておりません。