「掛川に新しく駄菓子屋ができるらしいよ」
「お店は障がいを持った方が運営するらしい」
そんな噂を耳にしたのが10月でした。
お店をやるのは「横さん」という方で、どうやら車椅子に乗った”障がい者”であるとのこと。このご時世、駄菓子屋だけでも珍しいのに、障がいを持った方がお店をやるなんて、と僕は驚きました。
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実を言うと、僕の義理のお兄さんは障がいを抱えています。
そのことを知ったのは僕が高校2年生のとき。妻(当時は彼女)と2人でいるとき、「実はちょっと伝えておきたいことがあって……」と彼女は切り出しました。
「私のお兄ちゃんは障がいを持っているの」
僕はそのとき何と言っていいのかわからず、「そうなんだ……」とだけ答えました。あとは適当にその場を濁したように記憶しています。
横さんの話を聞いたとき不意に頭に浮かんだのは、そのときの自分でした。
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今回、横山さんがお勤めになっているという「リツアン」の方にご紹介いただき、横山さんと奥さまの洋美さんをインタビューさせていただくことができました。
〈聞き手=ハマ〉
Contents
きっかけはリツアン野中社長との出会い
▲「横さん」こと横山博則さん。笑顔とTシャツが最高
ー本日はお忙しい中ありがとうございます。最初に確認なのですが、横山さんはリツアンの社員ということでよろしいのでしょうか
横さん:そうです。僕はもともと他の会社に勤めていまして今から6〜7年前、52歳のときにそこを辞めたんですね。
どうしても福祉教育に携わりたくて、会社を辞めたあとは色々な学校を回って福祉のことについてお話したり、行政や障がい者団体とつながったり、そんな活動をしていました。
ーリツアンに入社した経緯を教えていただけますか
横さん:僕は外に飲みに出かけるのが好きで、掛川市連雀にある屋台村「本陣通り」によく行っていました。そこへ偶然リツアンの野中社長が来ていて、そこで意気投合したんです。
彼はおもしろくて、出会ったその日に福祉タクシーを手配してキャバクラに連れて行くんですよ。普通そんなことしませんよね?
ー普通はしません(笑)つまりはお酒がきっかけだったんですね
洋美さん:主人は本当にお酒が好きで、若い頃からしょっちゅう飲み歩いて……
横さん:もうその話はいいじゃないですか(笑)
洋美さん:でもお酒を通じて新たな出会いがあって、これも何かのご縁ですよね。本当にありがたいことです。
▲奥さまの洋美さん。優しい笑顔で横さんの弱点を突く
横さん:その後も折に触れて一緒に飲んでいると、突然「横山、リツアンで働かないか」と言われました。野中社長は私が福祉教育に取り組んでいることを聞き、「それを仕事としてやっていいよ」と言ってくれたんです。
子どもから大人まで、さまざまな人たちの交流の場にしたい
▲まだオープン前の駄菓子屋「横さんち」に入らせてもらいました
ーなぜ駄菓子屋をやることになったのでしょうか
横さん:その後も何回か飲んでいると、野中社長が「駄菓子屋をやりたい」と言い出して、僕もそれはいいなと思ったんです。
なんせ僕は障がいを持っていて、子どもの頃に自分で駄菓子を買ったという経験がありません。子どもたちにそのような場所をつくるというのは夢がある話じゃないですか。
▲えっ、めちゃめちゃオシャレ過ぎませんか……
横さん:特に障がいを持った子どもたちは、ただでさえ外へ出かける機会が少ないですから。そのような子どもたちが気軽に買いに来られるような、そんな駄菓子屋ができたら、それはそれは素敵なことだと思いました。
僕はそれまでたくさんの学校を回ってお話をしていたわけですが、やはりそれだけでは伝わりきらないものがあると感じていたんですね。
でも子どもたちに駄菓子屋へ実際に足を運んでもらって、そこでの交流からまた何か新しい気づきや学びが生まれるのではと思っているんです。
ー駄菓子屋が福祉教育を兼ねた場になるということですね
横さん:僕は、健常者と障がい者の接点が少ないことが1つの問題だと思っているんですね。
「障がい者とどういう風に付き合ったらいいのか」
「どういう風に声をかけて介助したらいいのか」
大人からもよく不安の声が上がります。
駄菓子屋では子どもだけでなく、大人にも学びがある取り組みをしていけたらと思うんです。
ちゃんとした価値を生み出していく駄菓子屋を目指す
▲駄菓子屋の構想を語る横さん
横さん:そしてもう1つ大事なのが「障がい者の雇用の場」としての駄菓子屋です。
今回オープンする駄菓子屋では、障がい者が在宅でモノづくりをしていて、お店で展示販売などを考えています。実は作品づくりは野中社長の知り合いの芸大生が手伝ってくれていますし、お店の内装も東大生がデザインしてくれたんですよ。
これまで障がい者の作品というと「がんばって作ったので買ってください」的な雰囲気があったと思うんですけど、ここでは「価値ある作品」をつくって売り出していきたいと思っていますね。
ー駄菓子屋のスタッフは、障がいを持っている方がやるということでしょうか?
横さん:そうです。色々な障がいを持った方が働くので、決まった時間通りにちゃんと営業できるかわかりませんが。
洋美さん:野中社長は「休みたいときは休んじゃっていいよ」「土日だけの営業でもいいんじゃない?」と言ってくれるんですけど、子どもたちが学校帰りに楽しみに来てくれることを考えると、できるだけ営業したいなと思いますね。
あと野中社長のすごいところは、障がい者の方にも”就労B”ではなくて、ちゃんとしたお給料を払ってくださるところなんです。
「就労B」(就労継続支援B型)とは?
就労Bとは、障がいや難病によって雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービス。報酬は賃金ではなく、生産物に対する成果報酬の「工賃」が支払われる。
厚生労働省の発表によると、2017年の就労B月額平均工賃は15,603円で、時給に換算すると205円。国で定められている最低賃金とは大きな差があることがわかる。
厚生労働省ホームページを参照
横さん:実際のところ、これはなかなかできることではありませんよ。
ー僕がリツアンさんに興味を持ったのは野中社長が書かれているブログ「『ピンハネ屋』と呼ばれて」を読んだからなんですが、本当に真っ直ぐな想いを持って仕事をされていますよね。普段はただの酔っ払いにしか見えませんが(笑)
駄菓子屋はさ、とにかく勝ちてぇ。とにかく儲かりてぇ。アドバンス、力を貸して。みんなでオールで力を貸してね
— 野中 久彰 (@NonakaKuniaki) 2019年11月13日
▲野中社長、本気です
障がい者のことをもっと理解してもらえる、障がい者が外に出やすくなる駄菓子屋に
▲横さんがこだわり抜いたというトイレ。さまざまな障がいに対応できる仕様になっている
横さん:野中社長のように障がい者を雇ってもらえるだけでありがたいことなのですが、さらに障がい者のことをもっと理解してもらいたい、というのが私たちの願いです。
洋美さん:障がい者にとっては仕事に対して向き不向きがありますし、本当にその人に合った仕事というものを丁寧に見つけていくことが必要だと思っています。
横さん:僕も以前は人に助けを求めるのが嫌で、外出したくない時期があったんですね。でもそのままでは新しい出会いは生まれないし、ずーっとひとりぼっちなんですよ。そういうのは嫌だったし、変えたいと思っていました。
それでも人との出会いによって、ちょっとずつ外に、前に出るようになっていくことで世界は広がったんです。
今ではヒマを見つけては飲みに出るようになって、社長からは「不良身体障がい者だ」なんて言われますけど(笑)
駄菓子屋「横さんち」は11月18日(月)オープン!
横山夫妻は終始にこやかで話がおもしろく、僕も途中何度も大笑いしてしまうほど楽しい時間でした。
「障がいを持つ」ということを、僕はまだ本当の意味で理解できていません。でもご夫妻とお話していて、少なくとも横山さんたちのことは少しだけ理解できたように思います。もちろん、まだまだ学ぶべきことはたくさんあるはずです。
実はご夫婦の馴れ初めもうかがったのですが、今回は紙面の都合上泣く泣く省かせていただきました。まるで映画のような素敵なエピソードなので、また折を見てお伝えできればと思います。
ちなみに横山ご夫妻はなんと今年で結婚35周年。そして駄菓子屋のオープン日はお二人の結婚記念日とのこと!(素敵すぎる!)
ぜひとも18日のオープンには、結婚祝いも込めて大勢の方にお店へ足を運んでほしいと思います。僕も当日は丸1日「横さんち」へ取材に入る予定です!!
駄菓子屋「横さんち」オープンイベント&基本情報
【オープンイベント情報】
店主の横さんにジャンケンで勝つとお菓子をプレゼント!
- 11/18(月) 13:00〜19:00
- 11/19(火)〜22(金) 13:00〜17:00
- 11/23(土)〜24(日) 11:00〜17:00
【基本情報】
- 場所:静岡県掛川市城下7-10
- 営業時間:平日13:00〜17:00、土日祝11:00〜17:00
- 定休日:月曜日
リツアンホームページ https://ritsuan.com/
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