松浦製茶|掛川で荒茶製造業を営む3代目松浦さんを取材

掛川市上垂木で松浦製茶の3代目として茶業を営む松浦さん。茶業界の低迷が叫ばれる中、独自のアプローチで茶業を盛り上げているその秘密を伺ってきました。

松浦製茶の歴史

松浦製茶の始まりは、おじい様が始めた荒茶製造卸業。当時は、近所の農家さんが作る茶葉を買い取って荒茶を製造、卸売りを行っていました。自社でも茶畑は持っていましたが、当時は生産でやっていけるほどの畑ではなかったそうです。

時を経て、2代目であるお父様の代では、お茶のいい時期は段々と衰退し、お茶の生産を辞める人も多くなってきました。生葉が集まらないという苦境に立ち向かうべく、松浦製茶自らも農家さんの手伝いを始めました。自社で乗用型のお茶刈り機を買って収穫を手伝い、お茶狩りの労力を減らしてあげていたといいます。

現在は、2代目お父様、3代目の松浦さんがともに協力し、自社管理の茶畑を拡大。茶葉の生産・荒茶の製造の両方を兼業しています。

3代目松浦さんのお仕事

茶業を継ぐ人が減っていく中、2代目とともに、買い葉をしながら自園自製を行い、荒茶製造・卸、時に小売りまでをこなすという松浦さんの毎日は忙しい。さらに松浦家ではお米の生産農家としての仕事もしています。

松浦製茶の製造する荒茶のほとんどは卸売りされてしまうので、小売り商品は、毎年常連の方のみ予約を受け、製造販売している幻のお茶。これはいつか飲んでみたくなりますね。

そんな松浦製茶ですが、3年程前までは、自宅周辺のみで茶葉の生産を行っており、相場の問題、斜面の茶畑の管理問題などに苦しんでいたそうです。

そんな時に、独自のアプローチにより、事業を拡大するチャンスを生み出したのが3代目松浦さんでした。

自宅周辺にこだわらなくていい。機械を傷めず、良いお茶が良い時期に収穫できる土地であれば、どんどん増やしていったらどうか。

3代目松浦さん

東山のようなブランドのないこの地域では、手間暇をかけて、時間をかけて良いお茶を作っても、出荷の時期が遅ければ取引が思うようにいかないこともあります。この地でお茶を続けていくためには、出荷の時期や作業の効率化も大切なのだと痛感したといいます。

そうして辿り着いた土地は、平地で機械が痛まず、草刈りや落ち葉などの手間がかからない茶畑でした。松浦さんの目指す茶業とは、場所にこだわらず、効率化を計り、良いお茶の生産量を上げること。

”掛川ブランド”を背負う人と”新たな改革”を始める人

松浦さんは、独自の目線で掛川の茶業の未来を見据えています。

東山などのブランド茶を背負っている人たちは、これからもその伝統を守りながら、手間暇をかけて良いお茶作りをして行って欲しい。

でも、僕らこの地域でお茶を生産し、生き残っていくなら、違うアプローチから考えていくことも必要。

3代目松浦さん

今は、市内全体のお茶生産量も減り、農家が苦しんでしまうような取引価格も散見される。

だからこそ、手間暇をかける丁寧な生産がネックになり、金銭的にも、人員的にも回らなくなって辞めていってしまう農家さんが多い。そこを何とかしていかないといけない。

みんなが急須で淹れる高級茶を目指すのではなく、それぞれの役割に合ったお茶作りを目指していったら、掛川のお茶生産もまだまだ伸び代があるのではないか。

3代目松浦さん

価格重視のお茶を好む顧客もいる。

品質重視のお茶を好む顧客もいる。

嗜好品であるお茶への価値観は人それぞれ。

いろんな顧客がいるのならそれに合わせて生産者も色々でいい。

これは妙に納得がいきます。これまで多くのお茶関係者の取材をさせていただいた筆者ですが、初めて出会った、でも今必要なアプローチなのではないかと感じました。

松浦さんの茶業にかける想いとは

お茶作りは、こだわりと責任、生産のバランス。

僕らは、ブランドという責任がない身軽な位置にいる。だからこそ、いろんなアプローチで改革をしていきたい。

3代目松浦さん

いつ辞めてもいいと思ってやっていると笑う松浦さんですが、来年、新しいお茶刈り機の導入を予定しているそうです。

それはやっぱり、高年齢化している周りの状況を見ると、僕らがこれからのこの地域を背負っていこうというやる気も沸いてくる。

3代目松浦さん

大変とかそういうことではなく、この辺全部うちの茶畑!って言いたい。とお茶目に笑う笑顔が印象的です。

言葉とは裏腹に、日々地域のため、家族のため、茶業のためにモチベーションを高めているのが伝わってきます。

みんな仕事は家の近くから探さないよね?仕事を探すとき、働く環境や条件を見るでしょ?

農業も同じ。ほかの業界が当たり前にしていることを、農業に取り入れて働き方を改革していけばいい。

3代目松浦さん

松浦製茶の強み

僕らの強みは、やっぱり若さと臨機応変なアプローチかな。

あと、お米も作っているから、お茶で苦しかった時も何とか乗り越えられた。その逆もしかり。

冬の閑散期に、別業種の手伝いなどで兼業もしている。

そうやって得た収入でまた、お茶作りを頑張ったり、家族サービスをしている。

これが農業の面白いところだと思う。

3代目松浦さん

農業を継ぐ前にやっていた仕事での経験や人脈もまた、松浦さんの強みになっているそうです。

農業だけに向き合い苦しみ続けていたら辞めたくなってしまう。

いい時も悪い時もある。

20年近く、お茶のいい時代を知らない僕らだからこそ、気楽に考えていかないと。

繁忙期があるから閑散期に休憩できるし、その時間があるからまた繁忙期を乗り越えられる。

そういう時間も作っていかないと、さらに茶畑を広げていこうという気持ちにはなれない。

3代目松浦さん

何世代も続いて、機材や場所があって、それでも多くの人が農業を辞めていく時代。

高年齢化している茶業界で、1年中ずっと走り続けることは、私たちの想像以上に大変です。

だからこそ、ほんの少しの息抜き、農業でない場所での時間も必要なのかもしれないですね。

これからの茶業界に必要なこと

本音を言えば、いま現場が求めているのは、将来的な道筋作りよりも、目の前の肥料や機械、補助金などのサポートだったりはする。

そういうのがあったら生き残れるかもしれない人もいる。

やる気がある人にあとちょっとの一押しがあれば踏ん張れるかもしれない。

3代目松浦さん

松浦さん自身は、これからも、独自のアプローチでなんとか家族経営で乗り越えたいと語ります。

でもいつか、将来的に、女性や外国人など、農業での立場の弱い人たちも、正当にしっかり雇ってあげられる土台を作ってみたいという夢もあるそうです。

娘の友達が、「おじちゃん、私農業やるでね」と言ってくれたことがあった。

それがすごくうれしかった。

茶業界に、若い奇抜なアイデアをもった人材が入ってくるのもすごくいいと思う。

3代目松浦さん

大変な時でも、いつも笑って、景気のいいことを話していると明るくなれる。

人と会っていることで、ヒントが生まれたり、道が開けたりもする。

そういう時間も作っていきたい。

何よりも、人を大事にしないといけない。

農家さんたちは、互いに尊敬しあい、遠慮し、気を使い、感謝をし合っている。それが農業で働いている人たちの魅力や温かさ。

農業は本当に大変。 それを長年やってきている先輩達は本当にすごいし、それが農業の原点になっている。土地を守るという事。

3代目松浦さん

昔はこだわりや手間暇が結果に繋がる時代だったが、今は変わってきている。

僕が見ている茶業・農業の世界では、見捨てなきゃいけない場所もいっぱいある。だけど、まだまだ宝が隠れている場所もいっぱいある。

これはある人に言われた言葉だけど、

昔は、お茶は工芸品だった。今は工芸品(売ってください)も、工業品(買ってください)も存在していいと思う。僕もその通りだと思う。

3代目松浦さん

松浦さんの言葉は、とても人間味があり、きれいごとだけではなく、本当に大切なこと、茶業界の未来をしっかり見据えて考えているからこその本音。

だからドシンと心に響きます。

一番でなくていい。そう笑いながら、お茶と向き合う松浦さんの笑顔をこれからも応援していきたいですね。