掛川の暮らしを発信するWebメディア「掛川暮らしのマガジン」。2020年8月の特集「掛川で働く」では、掛川で働く人たちにフォーカスしながら掛川で働く魅力を探ります。
今回は、掛川に拠点を置く株式会社あらまほしの戸田さんにお話を伺いました。
2015年に設立。「テクノロジーの力でやさしい社会をつくる」を理念に、組織の人材育成やコミュニケーションなど、人にかかわる課題の解決に取り組んでいる。
代表取締役の戸田さんの地元は掛川。掛川観光協会掛川支部理事や掛川市公衆無線LAN推進協議会委員を務めるなど、地域の社会貢献活動にも積極的に参画している。
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わかりにくさで定評あり?「あらまほし」の事業内容について
ハマ:いきなりで恐縮ですが、あらまほしのメイン事業を教えていだけますか。ホームページを拝見したのですがよくわかりませんでした(笑)
戸田:よく言われます(苦笑)。基本的には、テクノロジーと科学的知見を地域社会に落とし込んでいくことが主な事業になります。例えば「Zoomの活用研修」や「授業のオンライン化」など、テクノロジーを地域で活用していくような取り組みです。最近だと専門学校の非常勤講師や、高齢者向けにLINEビデオ通話の研修講座などもしています。
ハマ:なるほど。テクノロジーの活用という枠組みの中で、幅広く事業をされているのですね。
戸田:そうですね。もともと僕は外国人政策や地域政策に関わりたくて、シンクタンクの三菱UFJリサーチ&コンサルティングという会社に就職したんです。そこで産業政策や経済政策を通じて、様々なリサーチや企画、プロモーションなどに携わりました。そういった経験を活かして今の仕事をしています。
ハマ:「あらまほし」という社名が気になったのですが、これはどんな意味が込められているのでしょうか?
戸田:あらまほしは、徒然草の「少しのことにも先達はあらまほしきことなり」(ちょっとしたことでも、指導者はいてほしいものである)で有名ですが、「~でありたい、~であってほしい」という意味です。日本と海外をつなぐ事業をしたかったので、日本の古語で何か想いを形にできるような言葉があるといいなと思っていたんですね。そこから「あらまほし」に行き着きました。あと単純に「あ」から始まるので、最初に目につきやすいなと(笑)。
ライトノベルに刺激を受けて起業を決意。初年度は大赤字
ハマ:就職したコンサルティング会社を辞めたのはなぜでしょうか。
戸田:自由な社風でしたし、仕事そのものはとても楽しかったです。ただ2年目以降になると担当するプロジェクトが10本を超えて、かなり多忙になりました。会社に泊まり込む日もありましたし、新しいアイデアを試す時間が少ししか取れなかったのが一番辛かったですね。
ハマ:たしかにシンクタンクは激務なイメージがあります。
戸田:加えて勤めているうちにリサーチだけでなく、事業を組み立ててモデルをつくることにチャレンジしてみたいな……と思うようになってきまして。「リサーチだけやっていてはいずれ仕事に飽きてしまうのでは…」という予感がありました。
ハマ:とはいえ5年近く勤めた会社を辞めるにはそれなりの覚悟が必要だと思います。何か退職を決意したきっかけはあったのでしょうか?
戸田:ライトノベル「羽月莉音の帝国」を読んだことですね。
ハマ:…??
戸田:この話は「革命部」に所属する女子学生が「自分たちで革命を起こそう」「社会構造を変えよう」と、様々な課題を解決していく小説なんですね。そこで展開されるストーリーや考え方にとても共感し、僕も同じように「自分で事業を作って社会を変えたい!」と思ったんです。
「羽月莉音の帝国」(至道流星著)
独立国家の樹立に向けて「革命部」という部活を立ち上げ、高校生が会社を設立。創業期の様々な事業や上場、M&Aでの取り組みなど、リアルな経営視点から描かれた経済ライトノベル。
ハマ:なるほど…かなりパンチの効いた退職理由ですね。その後はどのようにお仕事を作っていったのでしょうか。やはりまずは堅実に、前職でのつながりなどを活かして…
戸田:いえ、法人化して前職とはまったく関係のない「お茶の輸出」に挑戦しました。
ハマ:いきなり法人化してお茶の輸出ですか…!?
戸田:地場産業に関わりたいと思っていましたし、そこで外国人の雇用を作りたかったんです。月の売上も300万円は余裕でいくと思っていたので。
ハマ:(恐る恐る)それは成功したのでしょうか…?
戸田:大赤字でした(笑)
ハマ:(笑)
戸田:僕としては政策アプローチよりも、モデルや仕組みの実験を事業を通じてやりたかったんですよね。それでお茶の輸出を選んだわけです。通販サイトを立ち上げて、販売するお茶を探すために海外にも営業に行きました。まあ全然うまくいきませんでしたね(笑)。
ハマ:そこから、どのように軌道修正したのでしょうか。
戸田:お茶の販売はうまくいかなかったのですが、お茶屋さんからホームページを作る仕事を頂くなどして何とか収入を得ていたんですね。1期目が終わり「このまま2期目も同じことをしていたら死ぬ!」と真剣に考え、サイト制作や前職でやっていた仕事に近いものを軸にして事業を進めることにしたんです。
手頃な規模感とオープンマインド。掛川は起業にうってつけの街
ハマ:戸田さんが起業するのに掛川を選んだのはなぜですか?
戸田:単純に、実家に住めば家賃がかからないと思ったからです(笑)。でも実際に住んでみて思ったのは、「掛川は起業にうってつけの街」だということですね。
ハマ:どのあたりでそう思いましたか?
戸田:まず掛川は規模感が小さすぎず大きすぎず、事業を手がけたときに実感があるのがいいと思います。地方ならではの課題が見つけやすいですし、この街で解決できた課題は他の自治体にも転用できるはずです。加えて、街をリードする人たちがオープンマインドな点が良いですね。
ハマ:オープンマインドについて詳しく聞かせてください。
戸田:地方ってとかく権力者的な人が幅を効かせたり、確執があったりするじゃないですか。その空気感が掛川は少ないように思うんです。人の部分でとても魅力的な街だと思いますね。実際に人口規模からすると、掛川っておもしろい起業家が多くないですか?
ハマ:まったく同感です。僕も3年前から掛川でフリーランスとして活動していますが、ロールモデルになるような方たちがたくさんいてワクワクしています。
チャレンジに失敗はつきもの。失敗を恐れず好きにやろう!
ハマ:掛川の若い人たちや、地方で何かやってみたい人に向けてメッセージがあればお願いします。
戸田:前の話ともつながるのですが、掛川は人と人との距離感がほど良く、一緒に仕事ができる仲間を見つけやすいです。だから「地域で何かやってみたい」という人にはとても良い街だと思います。
とはいえ、新しいチャレンジに失敗はつきもの。そしてそれを恐れていたら何もできません。
だいたい僕たちのようなちっぽけな人間がいくら失敗したところで、世の中に大きな影響は無いんですよ。
だから失敗を恐れず、まずは好きにやってみてほしいと思いますね。
インタビューを終えて
実は戸田さんとはこれまでに何度かお会いしている。
これまでの印象は「クール&クレバー」。でも今回のインタビューを通じてその印象は「クレイジー&クレバー」に変わった。もちろんこれは褒め言葉だ。
多くの人は新しいことをやるときに情報を集めるばかりで、なかなか一歩を踏み出せない。迷っているうちにタイミングが去り、やる気も失われてしまう。
しかしながら戸田さんはやろうと思い立った段階で、迷わず自分の衝動に従って行動している。その真っ直ぐな行動力は稀有だし、何より先の見えないこの時代に強く求められていることのように思う。
既存の価値観を壊して新たな価値を生み出すには、正論だけではおよそ足りない。
近い将来戸田さんは、掛川で何か事を起こそうという人たちにとっての「あらまほしき先達」になっていくような気がした。